vol.10:体重が30kgを超えたから復職したい

カウンセリングを受けている一人、アイさんのケースを今まで9回に渡って内容を公開してきましたが、少しずつ前進されている様子が伺えます。(アイさんには了承を得ています)

今回はアイさんの10回目の面談。現在、低体重でドクターストップにより休職中。拒食、過食嘔吐を乗り越え、体重増加を少しずつ許しながら、なんと自力では生理が来ました。

現在、復職を早めたい自分と、認めない主治医の間で、悶々とする日々を送っていらっしゃいます

今までの歩み

今週のカウンセリング内容

運動について

精神科の先生が「体重が30kg以上になったら、多少の運動も考えよう」と言っていたのに、今回の診察では「まだ必要ない」と言われ、不満を感じた。会社が繁忙期である事から余計に「こんな怠けた生活は良くない、働かなければいけない、のんびり過ごしている場合じゃない」と思い、少しは運動を始めようかと考えている。

まず、お医者様の意見を尊重したほうがいいと伝え、まだ客観的にみても低体重なので運動は控えるように伝えました。彼女が運動をしようとしてしまうのは「以前はこの体重でも仕事ができたから、もう私は健康体」と思ってしまっていることが原因。その頃はランナーズハイで仕事ができていただけで、本当は心身ともにボロボロだったのでは?と伝えた。

食生活について

スイーツの食べ過ぎや過食、生活習慣病の不安に、先生は「好きな物への偏りは有るけど、あなたの場合は食事にお米等の主食が無いから炭水化物や糖分も過度な摂取とは思わない、量も過食といえる程ではないし血液検査は低血糖が続いているから、今は制限しなくて良いと思う」との事で、安心した。次の診察で採血結果に応じて必要なら食事内容の改善や制限を考えようと話し合った。

血液検査の状態からも、まだ低体重が原因による体に影響が出ていたので健康とは言い難い。このことからも運動はまだ控えたほうがいいと伝えた。

友人について

療養休暇に遊ぶ事ばかりしては良くないが、多少家に呼ぶくらいは良いかと思い、職場で仲良くしているアルバイトの子に連絡してみた所、喜んで遊びに来てくれた。一緒に買い物へ行き、彼女が食べたい物を適当に買い込み昼食、間食を摂った。

相手が食べたい物を食べようと、昼食にネギトロ巻き寿司を2~3切や唐揚げ、間食にポテトチップスを食べた。

ご飯物はあまりおいしいと思わなかったが、一緒に過ごした事は楽しく「普段食べない物でも、たまには友達と食べるのも良いな」と思った。

更に、差し入れに手作りクッキーを持参してくれて、彼女の心遣いがとても嬉しく、クッキーもその日の内に食べた。

時には自分の食べたいものも主張していいと思います。相手に食事を合わせることが「いいこと」ではなく、それぞれ好きなものがあって当たり前なのだから、あまり我慢しすぎるのではなく、自分の好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、と相手に伝えることもいいと思います。でも、相手に合わせて自分のこだわりをなくせたのは、前進していますね!

仕事について

上記の子から今期昇格した社員を聞いて、自分よりずっと後から入社した社員が(他部署で仕事内容も全く異なるが)自分より上へ昇格した事に、強い焦りや悔しさを感じたが「他部署だし仕事も上司も違うのだから評価の基準も違う、自分と比べても仕方が無い」と言い聞かせ、何よりも「わたしはもう“会社”という小さな箱庭の中だけでしか通用しない肩書や立場に拘るのはやめた、仕事の人生ではなくわたし自身の人生を彩ると決めた」と思う一方、やはり後れを取っている事への焦りや嫉妬の全ては拭い切れず、悔しいと感じている。

悔しいと感じることは向上心の表れなのでいいことですが、それだけに目を向けて、自分の健康を害してまで競争しなくてもいいと思います。

・他部署の係長(女性社員)からLINEが来て「アイさんを悪く言う人はおらん、頑張っとんのみんな知っとる」「アイさんは頑張りすぎるみたいだから、会社のことは気にせず、無理せずぼちぼちでね」等と励ましてくれた。

相手の心遣いを有難く思う一方、何も出来ない事に申し訳なく思った。アルバイトの子から「今すごい忙しくて、みんな毎日残業してます」とも聞いていて、社会から離脱して怠けている自分に強い負い目を感じている。

・どうせなら療養休暇を好きに過ごして楽しめば良い、休職の身を許そうと思えていたが、段々と「自分がこうして安穏と過ごしている今でも、みんな忙しい中で一生懸命仕事をしているのに、わたしはこんな風に過ごしていて良いのか」と思う気持ちが強くなってきた。

「食べたい物を食べる、趣味を楽しむ等は頑張っている人が自分へのご褒美にする事だ、汗水流して働いてるわけでもない、何もせず怠けているわたしにこんな贅沢な生活をする資格は無い」と罪悪感を感じている。

・最近は無かったのに、また仕事の事を夢に見るようになった。

早朝に目が覚め、遅刻すると慌てて(もともと出勤時間帯が早朝だった為)出勤する準備をしそうになったり、とにかく仕事に行かなければと焦ったり慌てたりする。

・長期間休み過ぎている、もういい加減働けと自分を叱咤する思いが強い。

仕事をしながら治療を進めれば良いのではと思い、無理を言う事にはなるが診断書を書いてもらい復職しようかと考え始めている。

・毎日怠けて過ごしている自分が情けなく、今の生活は贅沢で自分に甘すぎると思う。

「一日の食費は~円迄」「一日必ず運動(ウォーキングでも筋トレでも)を~時間行う」等、慎ましい生活や活動するルールを設けなければと考えている。

・罪悪感を感じながら過ごすくらいなら、多少無理してでも働くべきではないか。

次の診察で先生に復職に必要な診断書を書いてもらえないか相談しようかと考えている。

まず、前提として体が健康ではないのに、「今すぐ復職する」という選択は難しいでしょう。そして、復職後の体力づくりのための運動も難しいでしょう。

先生が設定した35kgまでは体重を増やすまでは、仕事のことを考えないように伝えました。そして、今の状態で戻っても、また以前と同じように働きすぎてしまったり、せっかく増やした体重を戻してしまうことになります。

今はご自身の「自分らしさ」や「仕事以外に楽しめること・熱中できること」を見つける時間。これを見つけずに仕事に復帰してしまうと、また健康を害してまで仕事に身を割いてしまう可能性も高くなってしまいます。

そして、「体力づくりのための運動がしたい」「体重が増えてきたから仕事がしたい」というのは、たとえ現在太ることが怖くないと思っていても、無意識のうちに体重を増やすことを恐れていたり、痩せていないと怠けているように見えると思ってしまったりするのは、まだ痩せを手放しきれていない表れでしょう。

体重が戻ればこの病気が治るわけではありません。でも、拒食の人は最低限の体重を増やす必要があります。それと同時に、心の問題に向き合う必要があります。アイさんは、心の問題にかなり真剣に向き合ってきましたが、まだ仕事以外に自分のありのままの存在価値を認めてあげることが難しい状況にあるように思います。

確かに、家にずっといると自尊心や自己肯定感が低下してしまうのもわかる。でも、そういう自分さえも認めて、「こんな自分でもまぁいいか」と思えるようになるといいなと願ってます。

来週までに「自分らしさ」「自分の好きなところ」「自分の伸ばしたいところ」を考えてくる宿題を出して終了しました。

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