しかし、克服にはこの「赤ちゃん返り」が大切なのです。
その理由を、快楽原則と現実原則を用いて解説します。
快楽原則と現実原則とは
フロイトが人間の心を支配する二つの原則として提唱したのが、快楽原則と現実原則です。
快楽原則とは、人間が行動する際に、人間の言動は快になるか不快になるかということが決定要因になること。
これと対照的に、現実を受け入れ、衝動や不快に耐えることを現実原則に従うと言います。
人は全員、赤ちゃんの頃は快楽原則100パーセントでした。赤ちゃんは全員「白黒思考」だったと言われていますが、その指標が「快or不快」です。しかし、次第に自分でできることが増えていくと、快楽原則だけでは快を得られることが少なくなり、現実原則を取り入れて行動するようになります。
つまり、「意識化した自分の欲求・衝動をどのような方法・工夫で満たせるのか』を合理的かつ道徳的に考えて、現実の状況と折り合いをつけていく原則のことです。例えば、ケーキを食べたいけど、夕飯前なので我慢する、学校に行きたくないけど、楽しいことを考えていく、勉強をしたくないけど我慢してやる、など。
そう考えると、大人は現実原則に従いつつ、快楽原則を満たせるようになった状態と言えます。
このように、大人になるためには「現実原則」を受け入れる必要があります。しかし、摂食障害さんは現実原則を受け入れることができない状態になります。だから、快か不快だけで物事を判断し、「痩せるという快感を得たい」「太るという不快感を回避したい」という動悸だけで衝動的に過食して快感を得ようとしたり、命に影響があるほどに痩せて快感を得ようとしたりします。
あれ、でもおかしくないですか?
摂食障害の子は一般的に、我慢強く、耐えながら、社会の要求に応えるような良い子が多い印象ですよね。しかし、摂食障害になったとたん、耐えることがネジが外れたようにできなくなる。それはなぜでしょうか。
そもそも現実原則を受け入れるためには、その痛みを代償してくれるものが必要です。つまり、現実を受け入れるという苦しい作業に対し、何らかの心理サポートが必要です。しかし、摂食障害になる子は大人になるまで、厳しい現実にひたすら耐えるような日々を送ってきました。
しかし、心では納得していなかったのです。つまり、社会的に正しいとされる現実を我慢しながら、日々現実を「仕方なく受け入れているように振る舞って」きたのです。
その限界を迎え、摂食障害を発症し、「受け入れられないものは受け入れられない」と現実を拒否し、非道徳的な「痩せた姿」に執着するのです。
つまり、今まで社会に合うように、自身の行動や考え方を度を超えてあわせていた、いわば過剰適応的だった良い子から、突然現実を拒否する「道理のわからない子」に豹変してしまったのです。よく、摂食障害になってから「赤ちゃん返り」のような状態になる方がいますよね。というより、ほとんどの方がそうなります。
私も、摂食障害になってから、「約束」「目標設定」「社会の常識に合わせる」ということが非常に難しくなりました。摂食障害が回復するにつれてそれらも受け入れられるようになりましたが、おそらく現在も続いています。非常に自由気ままな生き物になってしまいました。それはそれでいいのかもしれませんが(笑)
現実原則を受け入れるために
では、赤ちゃん返りしてしまった当事者は、どうやって現実を受け入れていけば良いのでしょうか。
簡単に言えば「幼児と同じように接する」ことが大切です。
大切な接し方3つを紹介します。
・求める現実原則を最小限にする
(家のルールを最小限にする。強制的に復学や復職を勧めない)
・現実原則を守れたら、それをしっかり評価する
(「お風呂に入れたね!えらいね!」など)
・甘えてきたらそれを受け止める
(良い歳して!と、一般論に当てはめない)
・現実的な目標を持っている場合は、それを利用する
(大学に受かりたいという目標があれば、その目標のために健康になるように促す)
ただ一つ注意しなければならないのは、「病気の声による言いなりにならない」こと。例えば「過食したいからお金が欲しい」「運動したいから、ぶっそうな真夜中に運動しにいくことを許す」など。病気の声によってそのような脅迫行動が起きることを認めてあげながらも、ある程度、常識の範囲内を守らせることは大切です。そのような病気の声が大きくなった時こそ、お子さんが甘えたいサインかもしれません。そのときは、怒ったり注意すること以上に、よりそう気持ちで話をきいてあげるとお子さんは落ち着くかもしれません。
いかがだったでしょうか。「良い歳して赤ちゃん返り?」なんて心配になるご家族も多いと思いますが、もう一度子育てをやり直すつもりで接してあげるのはどうでしょうか。
※参考文献(専門書に近い内容なので、少し難しいのでわざわざ買わなくてもいいとは思います><)