①拒食・低体重でマイルールに縛られる苦しみ
②拒食回復期で食欲や標準体重を受け入れる苦しみ
③標準体重を過ぎても、心は拒食のままなのに、過食が止まらない苦しみ
この中で、摂食障害になったほぼ全員が経験する「②拒食回復期で食欲や標準体重を受け入れる苦しみ」について、その苦しみの正体をお話ししたいと思います。
自分らしさを感じる過程で、必要な苦しみ
子供が大人になるための準備期間は「モラトリアム」と呼ばれ、この期間に様々な経験を通して自分らしい生き方を見つけ、アイデンティティを確立していきます。
※アイデンティティとは「自分は何者なのか」という概念であり、「自分が自分である感覚/自分が他者から認められている感覚」のことを指します。
だから、ほとんどの人は20〜30歳あたりで、自分の生き方に悩み、悩みながらも社会に出ていき、進学したり、働き始めます。
そう考えると、摂食障害はモラトリアムの意味を持つと考えます。
なぜなら、摂食障害になる方はアイデンティティが不安定である場合が多く、自分らしさを「痩せ体型/健康的な食生活/摂食障害という病気であること」によって保っている状態とも考えられるからです。
摂食障害=仮のアイデンティティ
では、摂食障害のときに感じる「偽のアイデンティティ」とはどのようなものでしょうか。
私は3つあると思っています。
アイデンティティ1=痩せ体型
痩せ体型に居心地の良さを感じると、「痩せ体型が自分らしさ」と思えてきます。しかし、これは「自分の価値がわからない」という問題を、痩せていることで解決している状態です。すると、「痩せていなければ自分の存在価値を保てない」という恐れから、強迫的に痩せを維持するようになります。
アイデンティティ1=健康的な食生活
健康的な食事をとることが習慣化されると、「健康を管理する自分」にアイデンティティを感じるようになります。しかし、不健康なものを食べると自分の価値がゆらぐ感覚を覚えるため、健康的な食事以外が食べられなくなり、不健康な食事に過剰な不安や恐怖心を持つようになります。
アイデンティティ3=病気の自分
周りの人に心配されることに居心地の良さを感じると、「摂食障害の自分(病者の役割)」にアイデンティティを感じるようになります。症状とうまく付き合うことは大切ですが、病気であることが心の支えになってしまうと、摂食障害を手放すことを恐れ、「治したい」と思えなくなる危険があります。
この三つに共通して言えるのは、摂食障害的な特徴が心の支えになってしまい、それを失うことが怖い状態です。
だから、この三つのいずれかが「自分の心の支え」になり過ぎている場合、なかなか「治したい」という気持ちが持てなくなります。
痩せ以外のアイデンティティを探す旅
痩せ体型や、健康的な食事がアイデンティティになってしまった場合、それを「自分らしさ」として、個人に内在化したままでは、回復しません。
それを自分らしさとして生きて行ってもいい。
でも、摂食障害を完全に克服したいのであれば、痩せること以外で好きなことや、特技、自分らしい生き方を見つけ、心の支え(=アイデンティティ)をつくっていくことが大切だと思います。
つまり、回復の過程で、自分の生き方について大いに悩み、痩せ体型にしがみつかない生き方を見つけていくと、回復につながるんだよね。
よく回復の過程で、「痩せ体型を手放したら、私には何も残ってない」という苦しみを感じますよね。
拒食の頃って、痩せた体を心の支えにしていたから、どんなに苦しいことがあっても「私には痩せた体がある」と思えたはずです。
でも、食事が食べられるようになって、体重が増えて、周りからも普通に見られるようになると、痩せ体型を心の支えにできないから、自分がなくなってしまったような虚無感に襲われることが多いです。
だから、苦しいんだよね。
でも、その「普通の人として見られる自分」になって初めて、本当の意味での、自分らしさや、自分の生き方を考えられるようになります。
だから、その苦しみは間違ってないです。
必要な苦しみです。
必要な成長痛です。
苦しいってことは、自分の心が育っている証拠です。
人の心が成長する時というのは、今まであった価値観に、新しい価値観が入り込んで、葛藤する過程にあります。
つまり、矛盾する気持ちで葛藤することでしか、成長できないこともあります。
悩むことでしか、次のステージに行けないこともあります。
今、自分を受け入れられなくて悩んでいる人、たくさんいると思います。
でも、それは非常に意味あることで、価値あることです。
このモラトリアムの期間は、痩せ以外に目を向けるチャンスです。
おそるおそる自分の世界を広げてみてほしいです。
痩せ中心という狭い世界から脱出することが、その過程は成長痛で苦しいけれど、回復期の苦しみから脱出することにつながるはずです。